やり野目晃士 行政書士事務所



外国人入国・永住・帰化・在留期間更新・在留資格変更・再入国許可。産業廃棄物収集運搬業、中間処分業、建設業、風俗営業、運送業等の各種許認可申請代理。相続・遺言、内容証明、法人設立。入国管理局申請取次行政書士。
狭山商工会議所青年部部員募集中。狭山少年少女合唱団団員募集中。

[エッセイ]

広島平和記念式典前夜

                                       鎗野目 晃士


 準備のため少し待たされた後に、私たちはホテルの宴会場へ通された。宴会場は広々とした座敷で机が一列に並び、その上には揚げ物やお寿司が所狭しと並べられていた。
 「空いている所に座って下さい」
と言って案内してくれた人は、中央を意図している様子だったが、私は戸惑いを感じながらも入口付近に座った。
 平成十ニ年八月、私は広島に来ていた。新宿区青年の広島平和派遣事業に参加したからだった。事業の行程は八月五日から七日の三日間で、新宿から参加した青年は男女ニ名ずつの四名だった。もう一人の男性は中国人留学生で、二人の女性は共に大学一年生だった。これは、八月五日の夜に行われた交歓会の話である。
 新宿の青年から見たこの交歓会の趣旨は、広島と長崎の青年と交流することにあるので、新宿の青年同士は離れて座っている。広島平和派遣には長崎市の青年も参加していた。平和派遣は、広島市と長崎市を一年おきに新宿区の青年が訪問し、平和記念式典(原爆死没者慰霊式・平和祈念式)に参列して、広島と長崎の青年と交流する事業である。私は入口付近に座ったが、中国人留学生の男性は部屋の中央にいて長崎の男性と意気投合した様子だ。また、一人の女性は中国人留学生と机をはさんだ向かい側にいて女性同士数人で何かを話している。もう一人の女性の様子は、遠くてよくわからなかった。
 交歓会のレポート担当者だったので、他の三人を見ていた。するとそこへ一人の女性が現れた。私は立ち上がり中央の空いている席を勧めたが、彼女は私の左隣の席がいいと言って座ったので、私も続けて座ることにした。
 ようやく青年が集まったということで、各自のコップには冷えたビールがつがれ、広島市青年代表のあいさつと乾杯の音頭を皮切りに、
 「乾杯」
と、まずは一連の社交辞令を終えてみたが、その後多くの青年は食べることに没頭していた。時刻は、午後八時を過ぎていた。
 「さっき見て、すぐわかりました」
 私は頭を上げた。話しかけてきたのは、先ほど隣に座った女性だった。
 「以前お会いしたのは、五年前の長崎平和派遣でしたね。それで今回私は広島平和派遣に応募し、初めて広島へ来ることが出来ました」
 「ええ、そうでしたね。あの時は、確か学生さんでした。今は働かれているのですか」
 「はい。実家の自営業を手伝っています」
 それから私は、仕事の話や平和に関する話を続けた。しかし、内心は大学の法学部法律学科を卒業したので、法律を生かせる職業に就きたかったが就けなかったという後ろめたさがあった。
 そのあと彼女は、家庭が大切だと言った。私は本当にそうだと思うとともに、なぜ家庭が大切だと言ったのかを考えた。その理由の一つは、家庭科の教師をしていたからだとわかった。あとはあれしかないと思ったが、それを口にしても大丈夫そうか、彼女の様子をうかがった。彼女の瞳は澄んでいた。この澄んだ瞳の持ち主は、私の好奇心を受け入れてくれるだろうと思った。だから、思い切って言うことにした。
 「あとは、早く結婚したいということですね」
 彼女は一瞬びっくりした。でも、怒り出したりはしなかった。言われてしまったというような顔つきだった。ビールで赤くなった顔が、ますます赤くなったように思えた。こんなにきれいな人なのに、人はそれぞれ何らかの悩みを抱えながら生きているということなのか。
 それにしても、周りは予想以上に盛り上がっている。会場にいる青年の表情は皆、笑顔であふれ、誰もがこの新しい出会いを楽しんでいるようだった。
 だが、私と彼女の会話は発展させようのない厳しい局面を迎えていた。そんな矢先のことだった。入口にいかにも健康そうな一人の女性が現れた。二人の視線は、そちらへ注がれた。その女性はうれしそうにして、私たちの横へ座った。彼女と来たばかりの女性は知り合いだったのだ。彼女は私が新宿から来たことを説明してくれた。私はただ、うなずくばかりだった。
 こんなに楽な世界があったのか。私は酔いが回りぼう然とする意識の中で、黙々とぶどうを食べていた。隣りでは、
 「お金は誰に支払えばいいの」
 「いや、何も食べていないのだから支払わなくていいよ」
と、譲り合っている。それなら半分支払えばと大岡裁きを演じてみたいが、私も加わって三方一両損とする器量はない。
 ふと、太宰治の『桜桃』の子供よりも親が大事という言葉を思い出す。平和よりも自分が大事と思いたい。自分がうまくいかない時に平和のことを心配してはいられない。世の中、漁夫の利で、お互いが争っている間に、本来無関係の者が利益を横取りすることがある。ニッポン放送株を買い占めて、フジテレビへの支配権を獲得しようとした、ライブドアの一件における村上ファンドがそうだった。
 漁夫の利で過去を思い出す。それは中学校一年生の一学期、入学したばかりの国語の時間だった。国語の先生は、クラス担任だった。先生は、教科書に出ていた漁夫の利の意味が分かる人に挙手を求めた。私は勢いよく手を挙げて先生に指名された。そして、立ち上がり夢中になって説明した。その時、先生は、
 「この子は」
と思ったらしい。これは別の時に聞いた。しかし、この子はに続く言葉が何なのかは、今も知らないままである。
 そんなこともあったなと優しい気持ちを思い出した。いつしか目には涙があふれている。それは、苦しさや不安に耐えている日常から解放された瞬間の出来事だった。
 私はまだ、ぶどうを食べていた。その様子をみて、
 「ブドウ糖をいっぱい取っている」
と言った彼女は、私の顔を見るなり、はっとした。泣いていると思ったのだろう。泣くというのはいいことだとか、泣くとすっきりして心がきれいになると、猛然と説明し始めた。普通は逆だと思っていた。でも、彼女の言うように気持ちがすっきりしたのは事実だった。
 「体は疲れているけれど、ここ数年間でこんなに気持ちが楽な日はなかった」
と言って、ほほえんだ。法律の勉強を、がんばってみようと心に決めた。

 帰り道、新宿の青年の顔には、さすがに疲れが感じられる。しかし、誰も疲れたと言わないのは、明日への思いが高まっているからだろう。明日への思いで夜空を見上げた。本当に広島に来てよかったと思える星空の下、私たちは、歩いて宿泊先のホテルへ向ったのだった。
■店舗詳細
●店舗名 やり野目晃士 行政書士事務所
●業種 行政書士
●営業時間 AM9:00〜PM6:00
●定休日 日曜日
●TEL 04-2959-2033
●FAX 04-2959-2033
●E-mail
●公式WEBサイト http://nttbj.itp.ne.jp/0429592033/
●住所 狭山市富士見2-23-23
●アクセス こちらから
●備考 ADR裁判外紛争処理未払賃金回収センター開設

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